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「手を、離すんだ」

「離したらお前たちはこいつをもう二度と手の届かない場所へ連れて行くんだろう」

「あんたの気持ちはよくわかる。あたしらだってこれで終わりなんて信じたくないんだ」

「終わりなんかじゃない、まだここにいる!」

「喚くのが許される時間はもう終わったんだよ」

「お前は……お前らは、こいつのことが好きじゃなかったのか?」

「好きだよ。大好きだ。だから弔ってやらなきゃならない。

 知ってるか? 人間は肉でできているから腐るんだ。お前がずっと離さなくても、お前の大好きな奴はドロドロに溶けて指の間から崩れ落ちていく。それこそ本当にもう二度と手が届かなくなっちまう」

「……そうなるとしても……それでも……まだ、こいつは……ここにいる、んだ……」

「棺桶はひとが二人はいるようにはできてないんだよ。 そんなにそばにいたいのなら焼いてから同じ穴に埋めてやる。望んだらそうしろってあの子が言ってたからな。そうしても同じ場所にあるだけだっていうのは他でもないあんたが一番分かっていることだろうが」

「……こんなにもつらくて、かなしいのに、どうしてそんな風に割り切ることができるんだ……?」

「大切な人がいなくなっても、太陽は昇るし腹は減る。残酷な話だが、あんたもずっと残酷だったんだよ」

​いつかくるそのとき のはなし
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