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​「あたしはなぁ、昔すっごーく遠いところでヒーローやってたんだ。ショーの作りモンじゃねえ本物の奴。すげぇ強いってわけじゃないし魔法が使えるわけでもない、けれども苦しんでる人にちょっとばかし手助けをできるくらいの力があった。今も多分、あるはずだ。だから行かなきゃ。いろんな人を苦しめてるのは許せねえけど、心がズタズタになってるのもあいつなんだ」

「心がはじけとんじゃうのは、わたしも、わかるから。覚悟とか全然意味なくて、そういう現実になっただけで、理解した瞬間に全部終わってるの。だって普通の人は頭を弾き飛ばされたらいくら備えようと身構えようと即死するでしょ?それと同じ。もちろんこうなっちゃったことはよくないことだと思う。けれどいつかくることだったんだろうとも思うんだ。だから、だからさ。超展開に置いて行かれたわたしたちは、できることをやればいいんだよ」

「どうせ解決以外に報酬のない仕事になる。ならば、追い立てられるよりかはお前に危害を加えさせないために、という俺のねがいで動いた方が幾分かマシになる。そうは思わないか?」

「オレじゃないオレで要するにオレのことなんだけど、もうとっくに死んでんだよね。だからまぁ、そうじゃないひとよりはいいかなって。いやもちろん死にたくない。殺されていい気分になるやつなんかそうそういやしない。ただ他の人とは違ってて、他の人にはできない役目をするってだけだ。

 あぁ、これあの子と同じじゃんか。そりゃあ……辛かったんだろうな」

「多少の義理と燃えカスばかりの人情よ。人様のために汗水流すのはそりゃあ素晴らしいことだろうが割に合わん。それでもやんのはあたしの燃料が美しい熱意なんかじゃなくて、ムカついて仕方ないっつー腹ん中で煮えたぎってるマグマだからよ」

「俺は今から死にに行く。お前は生きるためどこにいたい?」

「全部を無に帰す。そうしなきゃもう止まんない。取り戻しようがない。絶対にバグが起きるし、あたいらは消したことも覚えていられない。そりゃあ全部消すんだから当たり前だよなあ?だけどね、あんたたちは戻らない。この悲惨な惨劇も、パートナーが揃いも揃って人外じみてるのも、……あいつがああなるのも、みんな覚えたままだ。まああいつの頭がネジ切れちゃったのは死んだのを見ちゃったからなせいだけど逆に言えばそれだけだし、巻き戻ったあとのあいつに『お前はバケモノになってたんだ』なんて言ってもまた狂ったりはしない。そうだったのかって他人事みたいに知るだけよ。

 次に会う初対面のあたいらに前に会っていたと言っても言わなくてもいい。なぁにはじめてやることでもないんだ、全員飲み込んでまた生きていける。もちろんもう二度と顔を見せなくてもいい。あんまりにもあんまりだっていうのはいくらあたいでもわかるしな。

 だから覚えていてほしい。あんたたちが好きだった、あんたたちを好きだったあたいらはいなくなるってことを。それでもまだ好きでいてくれるっていうならこんなに嬉しいことはねえよ。あいつがいなきゃあたいらはここに来なかったしあんたらにも会えなかった。そして全部ぶち壊したのもあいつだ。恨んでもいい。憎んでもいい。つってもあとのあたいらは何も知らない。よくわからんロボットなあんたらが噛みついてきたら多分メダルまで割っちまうだろうから、復讐はよく考えてからやってくれ。

 ははは、やっぱりいい気分はしないなあ今までのことが全部なくなるっていうのは。楽しく作ってた作品が消えたことにも気づかないなんて最悪だ。でもやんなきゃもっと最悪で固定だもんな。奇跡も魔法も敵に回ったらどうしようもねえや。さーてこれだけ長々と喋ってたんだからもう覚悟はできてるよな?できてなくてもやっちまうけど。

 じゃ、さよなら。よければまた会おうぜ」

「きっとこれを言ったらもう二度と前のオレたちのようにはなれないんだろう。でもダメだ、無理だ。黙ったまま今までをなぞるなんて悠長なことをしていたらオレの心がはじけとんじまう。だからかわりにオレたちの関係を壊してやる。

 オレは、世界の誰よりもお前を愛している」

「キミの知ってるわたしは、わたしだけどわたしじゃない。こんな風に出会わなかったんだろうから、きっともうキミの知ってるわたしにはなれない。多分、キミを愛するってことも、その、現実味無さすぎてできそうにないかな。でもね、キミがわたしのことを好きだっていうのはわかる。キミの好きにはなれないけれど、わたしもキミを好きになれる。ひとに好きになってもらうには、まず自分から好きになるのがいいんだよ?そう、わたしのことが好きなひとをわたしは好きになっちゃうの。あんまりなことだけど本当のことなんだ。

 キミの好きなわたしじゃないけど、キミのわたしの好きもないけど、わたしはキミのことが好きになったよ。わたしと、一緒に居てくれる?」

「ぼくをみつけてくれてありがとう、マスター」

「知らぬ顔で同じ道をたどるというのは苦難に耐える強さとは違う精神の力を求められる。私はオチの見えた茶番を演じることが我慢できなかった。なればせめて結末は同じものにしてやろうと思っただけだ」

「だからといって初対面から腹を裂くやつがあるか」

「なーに、死んで記憶が吹っ飛んで生き返るなんていつものことさ。それでもオレはオレだってもうとっくに決めてんだ。だからさ、オレの知らないオレの話を聞かせてくれよ。消えたって巻き戻ったって全部なかったことになんてならない、お前が覚えていてくれてるんだからさ」

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