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「マスター!マスター!!」

「叫ばんでも聞こえる。テロでも起きたか?」

「そそっそこの公園で!子供が!!メダル食べてたんです!!!」

「はあ? ……メダルチョコでも食ってたんだろう」

「はぇ? メダルチョコ?」

「六角形の板チョコにメダルに似せた銀紙を巻いたものだ。コンビニやら駄菓子屋やらで売られている。安価故にメダロットを所持できない年齢の児童が代用品として好んでいるが、見たことはないか?」

「いえ……マスターが食べないのでそういうのは見てないです……。 おもむろに取り出してかじり始めたので、こう、恐ろしくて」

「お前からしてみれば自分のコアに似せたものを食われたところか、そう怯えもするものだな」

「いえっ、もう覚えたのでこれからは大丈夫です! もう一度調査に行ってきます!」

「マスター!!マスター!!!」

「今度はどうした」

「表の通りでロボトルがあったんですけど、負けたほうのマスターが落ちた自分のメダロットのメダルを、……よ、弱くていらないからって、食べて……!!」

「……あー。最近そういうイタズラが多いらしいな」

「ふぇ? イタズラ?」

「手先が器用な奴がやるんだと。勝って鼻高々な相手を脅かすために落ちたメダルとチョコレートをすり替えて食べて見せる。突然凶行に及んだ様子を見せられた相手は泡を食うという算段だ」

「こ、今度こそ本当にメダルが食べられたのかと……びっくりしました……」

「確かにタネを知らないと驚くではすまなさそうではあるが。まあ銀紙は食えんしかじれば表面が不自然にひしゃげる、慌てずによく見ればすぐに冗談だと気付く。これでいざ自分の戦闘で目の当たりにしたときに動転しないですむだろうよ」

「性質の悪い冗談は分かっていても遭遇したくはないですよ……」 

「今日もお仕事お疲れ様です、マスター」

「お前もな。あれほど働けば疲労感のひとつも覚えるだろう」

「私は平気です! マスターのお役に立てるだけで疲れなんて吹っ飛びます」

「それはいい。 ……とはいえ俺はさすがに腹が減った、飯にする前に少し食べようか」

「そろそろ冷蔵庫の肉類の消費期限が切れそうなのでそちらを使った夕食を、…………、…………え?」

「どうした」

「あの、マスター。マスターが出したそれ、メダル、ですよね? どうして今……」

「食べるからに決まっているだろう」

「あ、ああ、メダルチョコですね! 確かに一時的なエネルギー補給にチョコレートはいいと調べ、あ、ぇ」

「なんだ」

「…………銀紙、は?」

「ないぞ」

「今、あの、かじって」

「そうだな。お前に口と消化器があれば分けてやってもいいのだが。とはいえこんな小さな一枚を分け合っても余計腹が減るだけかもしれんか」

「…………あの…………それ、クワガタメダル…………マスターの予備のメダルって…………」

「クワガタだな」

「……………………」

「どうした。 ああ、ドッグメダルでないのが不満か?ならば少し待て」

「ひっ」

「何を怯えている?」

「ま、マスター…………マスター…………っ」

「心配することはない。根回しに多少手間はかかるが、お前が不安がることではない」

「あ、ああ、あああ」

「おい、待て。逃げるな。もっとこっちに」

「うわあああーーーーーーーーーマスターが狂ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「おいテメエんとこのブルースドッグがめちゃくちゃ喚きながらウチに来たぞなんなんだよ」

「観察眼の試験ついでにからかってやろうとしたら予想以上に混乱してしまってな。そっちに行っていたか」

「お前さあ……。 マスターがおかしくなってメダル食べたーマスターを助けてくれーってすげえうるさかったんだからな? ウチのティタン見たらひっくり返っちまったけど」

「……そこまでだったか。さすがにまずいな」

「ていうかメダル食うってチョコかなんかだろ? そこまでビビることかよ」

​「いや、菓子作りが得意な知人がいてな。 琥珀糖に金箔を貼ったものを作ってもらった。そのままかじると噛み口が歪んですぐわかるからあらかじめ切れ目が入っている手の凝りようだった」

「メダロット相手にその本気ってもうイジメレベルじゃねえの何してんだよ」

「フェイクを用いる例は教えたんだが。 どうもあいつは自分の知識外にあることに関しては弱いということが分かった」

「ところでオレ今、ウチのティタンと通信してんだけど。テメエのワンちゃん、起きて早々に逃げてきたのをめちゃくちゃ後悔してるしマスターになら食べられてもとか言ってるらしいんだけど。引っ張ってくるからそこで正座してろボケナス」

「……はい。」

メダルを食べるひと​ のはなし
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