「あのさァ。メダロットって、頭変えたら声変わったりすんの?」
「? んっと、多分そんなことはないと思い、ますよ? わたしの子たちはたまに変えたりするけれど、多少くぐもったり響きが変わるだけで個人ははっきりわかりますから」
「そっかァ。そんじゃどうしようもねえなこりゃ」
「何かあったんですか?」
「いや、うちのやつがさァ。ほらあのクライバンシーのやつ。なんだか歌いたさそうなんだけど、バンシーだからかクッソ下手なんだわ。ヘタウマじゃなくて騒音とか不快音とかそういうレベル」
「……あー……確かにこの図鑑説明だと……心地よさそうな歌には思えませんね……」
「ガワに依存してるんなら適当に良さそうなもん買って変えてやるかなァって思ってたんだがな。まあ一応やってはみるけど」
「確か、サーキュリスとかスィーカマーがいるんでしたっけ。それ以外で何か良さそうな機体……あ、アリンスダユーとかオトギプリンセスとか……ですかね……?」
「なんそれ。 ……わーおかわいいやっちゃ。 まいーや、ちょっとやってみらァ」
「無理でした」
「無理でしたか」
「声ぜんっぜん変わらないのにガワが可愛いから違和感通り越して不気味だったわ」
「それはなんというか、ご愁傷様?」
「神経はみんな同じなんだろー、じゃあもう中身のせいじゃん? 中身変えちまったら意味ないじゃんしさーもうさー」
「う、うぅん。メダルがそういう個性だったら頑張って時間をかけて矯正するしかないんじゃないでしょうか」
「チューニング以前になんとかなると思えねえんだよアレ。地面に叩きつけた後のギターと同じだよ変えたほうが早ぇよ……」
「でも変えないんですね」
「んー。まああいつらロボだけど? 自分で考えて動くしめっちゃ心あるっぽいし。あいつなんか言われてもないのに手伝いしてくれて暇さえありゃ隅っこで歌う練習してるんだぜ?
そんなんもう普通にかわいいじゃんかよ。なんなら人間よりかわいげあるまであるわ」
「気持ちはすごくよくわかります、けど。 ……演奏には、その子は参加していないんですよね?」
「ん? んー、大抵舞台袖で見てるか客さばき手伝ってるかかなァ」
「なにか楽器をあげてみたらどうですか? それなら多分歌えるようになるよりは早く演奏できると思います」
「えっ? ……えっ? いや、あいつは他のメンツみたく歌いたがってて……」
「もしかしたら、ですけど。 歌いたいっていうのもあるとは思いますけど、みんなと一緒に同じことをやりたいっていうのもあるんじゃないでしょうか。あなたも含めてみんなが一丸になって演奏してるから自分もその中に入りたい、って」
「いやそんなまさか。 ……そうなんだろうか……?」
「えっと……腕の形からして、簡単そうな楽器を渡してみるといいと思います。カスタネットとかトライアングルとか。もし本当に歌いたくてそれ以外はいいって思っているのなら、その時はもう一度考えてみるといいと思います」
「そー、ねぇ。いや、うん。ずっと歌いたがってたから、歌がいいんだと思ってたけど、そういえばしっかり聞いたことはなかった気がするわ。よっし、お姉さんもうちょっと頑張ってみるか!パーツ買って結構金ないけど!!」
「あはは、あんまり無理しない程度に頑張ってくださいね」
「おーい、お前宛に封筒来てたぞー」
「封筒? 教材の宣伝とか……じゃないよね、これは……」
「これってあれか、あのロックだかバンドだかやってる姉ちゃんだよな。あいつとそんなに仲良かったのか?」
「うん、ちょっとね。 ……あ。 ふふ、あははっ!」
「なんだよ何があったんだよ」
「招待状だよ。 新しいバンドメンバーが入ったから、記念ライブをやるんだって!」